第15回受賞作品 [ジュニアの部]

審査総評

木を愛おしむ詩情にあふれて

 ジュニア部門に出品された四百数十点の作品群を見ていると、まるでそこにはページを開いた絵本や詩集が並んでいるように思えます。時空を越えたファンタジーや自然を見つめた美意識が審査会場を包み込み、木を愛おしむ感性が響きあっているようでした。
 現代の子どもの生活と表現活動には、アニメーションやゲームなど映像文化の影響が色濃く反映されがちですが、出品作晶のモチーフには昆虫、鳥、ウサギ、花、森など自然の美しさや感触に誘われたイメージが多いのです。木に内在するおおらかな生命の息吹きが子どもの誌情を輝かせるのでしょうか。
 子どもは木工作が大好きです。小学校時代に絵を描くのが苦手になっても、木工作なら疲れをいとわない意欲を発揮することが少なくありません。生活道具や装飾造形を作る木工作のプロセスが、自己表現の充実、刃物や加工技術の学習、地域固有の伝承文化との出会いなど、物と人を通して触れる発見や感動のスケールが大きく深いからだと思われます。
 ところが生活の情報化や機械化が急速にすすんで日常の手仕事経験が減った上に、学校五日制のもとでは美術教育としての木工作が難しくなりました。本格的な木工作は時間がかかり過ぎるからです。材料の人手も悩みのタネですし、それに木に親しむ生活環境さえ失われている現状です。
 その難しさを克服して出品参加されることは並々の努力ではできないことです。子どもたちの作品は奔放なアイディアで表現を楽しんでいるもの、生活道具をユーモラスな感覚で彩ろうとしたもの、高度な加工の魅力にチャレンジしたものなどさまざまですが、教育者の優れた指導と家族のよき協力のたまものと思われました。
 けれども工作で学ぶ文化や地球環境理解などの深さや広がりは、多くの教育識者が指摘するところです。総合的な学習、地域社会との交流などの試みにも見られるように、図工美術の枠を越えた子どもの生活文化体験として、感性的創造的なチャンスが今後もふえることを願っています。

ジュニア部門審査員長 寺内 定夫
(玩具デザイナー)

グランプリ

作品名 / ぴょこぴょこねずチュー
氏名 / 海野 絢奈 (宮崎県立佐土原高等学校3年)

【作者コメント】
 横の取っ手を回すと、中で歯車のからくりが動き、チーズの中からねずみ達が飛び出す仕組みになっています。人に優しい温かい木のぬくもりを幼い子ども達に感じてもらいたくて、可愛らしくなじみやすいねずみ達を思いつきました。また、この作品は「幼児向け玩具」をテーマとしていますが、子ども達だけでなく、木に触れる機会の少ない時代に育った私達や懐かしい思い出を持つ大人にも是非、この作品を通して「木」というものの美しさ、そして温かさを体感して欲しいと思います。

【講評】
 からくり仕掛けの、遊び心を生かした楽しい作品です。ハンドルを回すと大きなチーズの中からネズミたちがとヒョッコリ顔を出すのですが、お尻を出すものもあって、ユーモアにとんでいます。この部門では高校3年生と最年長ということもありますが、その構想だけでなく技術的にも抜きんでており、審査員一致して推薦しグランプリを獲得されました。同校からは例年、技術的に優れた作品が出品されており今回最高位を獲得されたことを心からお喜び申し上げます。本展でもこのところ女子の活躍が目立ち、そのパワーに拍手を贈ります。

井上 重義(日本玩具博物館長)

準グランプリ

作品名 / 走れ!勇磨号
氏名 / 陣在 勇磨 (浜坂町立浜坂小学校5年)

【作者コメント】
 そこらじゆうにある木、そんな木を工作にするウッドクラフトも、ぼくが始めてからもう5年。その5年間の中でも夢のある作品ができました。人は作っていなくて、本体だけですが、いろんな所を走るので、おもしろいと思います。

【講評】
 準グランプリ受賞おめでとう。この作品は、どこでも手に入る木端、木片で大胆に制作されています。この作品を成功させているのは、汽車の前後に作られた鉄橋と林です。まさに汽車は今、林をぬけ、鉄橋にさしかかったところです。一目眺めた時、汽車が動いていると感じたのです。汽車の台車や車輌の大きさは不揃いで大雑把に作られています。車輌も全部寸詰まりでユーモラスです。この大胆さがこの作品の魅力です。心なごむ暖かみを感じさせています。鑑賞している我々は夢の世界に引き込まれます。この汽車が森の中を楽しそうに走る光景が浮かんできます。まるで漫画の一コマをみている様です。動かすことなく“動”を感じさせる素晴らしい作品に仕上がりました。走れ!勇磨号は、まさしく走れ!ユーモア号ではないでしょうか!

大野 己善男(造形デザイナー)

優秀賞

  柏原町長賞  wood de dog  東京都立工芸高等学校(3年) 松長 波奈子
  柏原町長賞  かざりだな  三田市立すずかけ台小学校(5年) 松永 直也
  柏原町長賞  奈良の大仏さん  氷上町立西小学校(2年) 山本 佳司

奨励賞

  氷上町長賞  ぼくの虫かご  三田市立三田小学校(6年) 仲谷 淳史
  青垣町長賞  森のどこかで  寒川町立寒川東中学校(3年) 徳江 美帆
  春日町長賞  イス  寒川町立寒川東中学校(2年) 金子 あさ美
  山南町長賞  さかなつり  柏原町立崇広小学校(5年) 荻野 陵平
  市島町長賞  山の中のログハウス  姫路市立花田小学校(5年) 鳥本 ありさ
  丹波の森協会理事長賞  オルゴール  寒川町立寒川東中学校(1年) 高橋 しひろ

アイディア賞

  兵庫県芸術文化協会理事長賞  木工ロボット  大河内町立寺前小学校(6年) 黒田 竜兵
  兵庫県芸術文化協会理事長賞  夏の思い出  福崎町立福崎小学校(6年) 大藤 隆正
  兵庫県勤労福祉協会理事長賞  三りん車  三田市立すずかけ台小学校(4年) 工藤 雅之
  兵庫県勤労福祉協会理事長賞  カモ型歩くおもちゃ箱  西宮市立瓦木中学校美術部
  丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞  鳥の親子  三田市立すずかけ台小学校(4年) 田中 美奈未

特別賞

  丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞  チックタッくも  宮崎県立佐土原高等学校(3年) 陣内 太一
  丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞  壁掛  寒川町立寒川東中学校(1年) 須山 直美


出展作品数は427点、出展校数は32校


審査員

    造形デザイナー 大野 巳喜男
    【Jr.審査員長】玩具デザイナー 寺内 定夫
    日本玩具博物館長 井上 重義
    東北工業大学客員研究員 山崎 純子
    彫刻家 磯尾 隆司
    氷上郡小学校 図工研究部長 中村 富美代