第37回受賞作品 [一般の部]

審査総評

 酷暑のせいもあったでしょうか、提出を目前に辞退される方もあり、昨年より応募数が減ったことは残念でしたが、個性きらめく作品がずらりと出揃いました。伝統的な製法で生み出された玩具群に現代的な技術を用いた作品が加わり、37回の歴史を刻む当ウッドクラフト展にも、私たちが生きている今という時代が反映しているのだとあらためて気づかされます。

 今回の受賞候補にあがったのは、思いがけない着想に“おっ!”と驚かされるもの、作者の独自性と技術が発揮されたもの、あらけずりではあっても造形センスが素晴らしく、遊びを広げていく可能性がつまったものなど、いずれも創造性にとみ、長所が目立つ作品ばかり。一方で、あともう一歩、練りあげたらもっとよくなる!と、ひとつひとつの作品をじっくりみつめて、審査員がそれぞれのアイディアを語り合ったため、受賞作の選定には例年より時間がかかりました。それがまた楽しい審査会でもありました。結果として、10代から20代の若い世代が多く受賞されたことを嬉しく思います。

 次回のテーマは「つかむ」。人の手に優しい木のぬくもり、遊び心と創造の喜びにあふれ、作者の玩具づくり哲学が感じられる作品を期待しています!

                       

   日本玩具博物館学芸員 尾崎織女

テーマ評

 今回のテーマ「ゆったり」は抽象的であったためか、応募作品全体に占めるテーマ作品の割合は低かったものの、11点の受賞作品中6作品がテーマ該当作となり、半数以上を占める結果となりました。このことは「ゆったり」という情緒的とも言える言葉に対し、応募された皆さんが多様に解釈し、創造性を発揮された証と言えるでしょう。グランプリ作品は、レーザーカットやQRコード等、先端的な表現手法が用いられており、一見「ゆったり」とは対極にあるようでした。しかし「手のひらのゆったりメカ」というタイトルが示すように、技術とテーマが絶妙に融合した意図と意外性が評価されました。一方で、思わず笑顔になるようなユーモアや温かみを感じさせる、ほのぼのとした作品もあり、テーマの幅広さを強く印象づけました。

 次回のテーマ「つかむ」は、具体的な動作を想起させる一方で、現代の流れを捉えるという哲学的な解釈にもつながり得ます。その言葉が導き出すイメージから自由な発想を広げ、多彩な作品が生み出されることを期待します。

名古屋葵大学教授  渋谷 寿

グランプリ

グランプリ 文部科学大臣賞
入賞者:竹澤 雄理(長崎県長崎市)
作品名:回して学ぶ多機構-手のひらの“ゆったりメカ”-

使用樹種/MDF、コルクシート

【作者コメント】

 クランク、ゼネバ、遊星ギアなど、さまざまな機構をモチーフにした回転玩具です。

 試作を重ねて軸や木の厚みを工夫し、長く回して遊べる強度を持たせました。

 回すたびに異なる動きが指先に伝わり、ハンドスピナーのように“ゆったり”と癒やされながら、仕組みの面白さを直感的に学べます。

 大人は機構の美しさに、子供は動きの楽しさに夢中になる、誰でも楽しめる木のおもちゃです。

【講評】

 今回のグランプリ作品は、審査員が審査基準を改めて見直すほど、近年にない意表を突くものでした。10の基本機構を手のひらサイズにまとめ、先進的なレーザー加工技法が凝縮されています。高度なメカニズムと精密な仕上がりなど完成度は驚くほど高く、各作品の中の小さな顔の刻印は、ほのぼのとした温かみを醸し出しています。さらに、ペンダントになる工夫や、QRコードによりメカニズム動画が閲覧できるなど、あらゆる仕掛けが一つの小さな作品に詰まっています。

名古屋葵大学教授  渋谷 寿

準グランプリ

準グランプリ 兵庫県知事賞
入賞者:三浦 海音(東京都 中央工学校)
作品名:鳥の巣

使用樹種/桧、集成材

【作者コメント】

 木の棒を鳥の巣のように積み上げるおもちゃです。バランスを大切にしながら遊べます。

【講評】

 枝分かれの違う数種類の枝木をバランスよく組み上げて鳥の巣を作っていく、単純だが構成力と想像力を使ってあそぶ構成おもちゃだ。枝の仕上がりが荒く、精緻な感じはしないが、これがかえって摩擦力を高め枝のかみ合わせを良くしているのか?作者の計算だとしたら、お見事。

 枝に紛れて「鳥はどこ?」鳥を枝とは違う色の樹種にして、アクセントにすることで全体が立体的になり、可愛さも増すのでは。鳥だけではなくたまご、小鳥などの別アイテムが欲しかった。

 最後に、このおもちゃはゲーム要素が含まれと考えられるので、そのアイデアと説明が欲しかった。

プロダクトデザイナー 中井 秀樹

優秀賞

  丹波市長賞 知恵の盤 荒井一冴(金沢科学技術大学校)

  丹波市議会議長賞 親亀の背中に…⁉  津田 敏幸(兵庫県加古川市)

  丹波市教育長賞 小さな万国博覧会 宮本 重信(兵庫県神戸市)

新人賞

  (公財)兵庫丹波の森協会理事長賞 宇宙から、こんにちは! 加藤 菊文(神奈川県秦野市)

特別賞

  三木工業協同組合理事長賞 HANAWA  井川 健(佐賀県佐賀市)

佳作

  丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞 立てばピラミッド、座ればラクダ  久保 進(神奈川県伊勢原市)

  丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞  12の約数を主題にした54㎜基尺のサペリ製 数学・音楽積み木 髙橋 慧、髙橋 敏之(岡山県岡山市)

  丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞 ぴころん 大森 恵(兵庫県丹波市)

学生賞

  丹波市製材協会賞  にょろにょろフィッシング  前園 結香、山下 翔太、山佐 葉月、濵田 悠人、美吉田 朝哉(佐賀大学)


出展作品数は69点(内テーマ作品数は33点、親子で遊べる木のおもちゃ作品13点)、出展者数は67名


審査員

【審査委員長】   渋谷 寿    名古屋葵大学教授
         中井 秀樹   プロダクトデザイナー
         尾﨑 織女   日本玩具博物館学芸員