第9回受賞作品 [一般の部]
審査総評 総評
今から30年ほど前のことです。ユネスコの芸術教育に関する会議が日本で開かれました。当時の日本はまだ貧しく、アメリカはともかく、せめてヨーロッパ並の生活をと夢見ていた時代です。そしてその後、日本人はひとり残らず働き蜂となって、高度成長がやってきました。
その会議の最初の基調講演で確かドイツの方だったと思いますが、今後芸術教育は、人々の余暇に大きな役割を果たさなければならないということが話されました。しかし私も含めて、当時の日本人にとっては全くピンとこない話でした。
今は逆に、かつての働き蜂も、そしてこの世紀に生きる若い人たちも、“何のために生きるか”という目標を見失っているような感じさえ受けます。単なる働き蜂ではない、かけがえのない、しかし限りのある自分の人生をいかに充実したものにしていくか。自分自身でそれを求めていく時代です。
もちろんひとそれぞれの生き方があります。しかし自己を表現し、そして自己を離れた一つの生命を作り出すという、つまりモノ作りという行為は最も充実した時間をもつことの出来るものの一つだと思います。
日本人は昔から自然と心を共にして独自の文化を育ててきました。文学、美術、そして自然に育まれた生命に再び新しい命を吹き込んできた木の文化。今、世界的な見地から環境問題を考えねばならないとき、人間と木との生態系 -木の成長を人が手助けし、その恩恵を人が享受する- をもう一度再認識することが大切でしょう。
ここ丹波年輪の里に集まったひとつひとつの作品は、或いは小さなものかもしれません。しかし作品に与えられた新しい生命は大きく、そして人と木とのあたたかい交流のなかでの創造活動の意義は大きなものだと信じています。
実行委員長 日野 永一
(兵庫教育大学名誉教授)
大賞
作品名 / 庭のかけら
氏名 / 富岡 麻有子(秋田県)
【作者コメント】
植物や木の芽の芽吹く姿が、とても美しく可愛らしいので、その姿を作品にしました。
【講評】
富岡麻有子さんの作品は心の作品。素敵です。想えば日本の誇る木の文化は野山に木を植え育てた文化。昔のたとえにあるように、女の子が生まれたら裏の畑にまず桐を植え、嫁入りタンスになるぐらい太く育てていたとか‥。
そんなぼくらの木への想いや木を愛する心が富岡さんの「庭のかけら」をみていてひしひしと感じられて、ほんとに素敵な心の作品です。彫刻・指物の技術も優れています。
秋岡 芳夫(工業デザイナー)
最優秀賞
作品名 / とんぼのいる帰り道
氏名 / 山岡 惇(秋田県)
【作者コメント】
学校の帰り道、道ぞいの柵の上にとんぼがいっぱいとまっていた。
ちょっといたずらしたくって‥‥‥柵をたたいてみた。
その昔におどろき、とんぼは飛びたち、そしてまた何もなかったかの様に柵の上にとまった。そんな秋の日の思い出を形にしてみた。
【講評】
学校の帰り道に見つけたトンボの姿-そんな秋の想い出を形にしたと作者は述べています。たしかに懐かしい情景を想いおこさせます。それでいて表現がとても明るく新鮮です。造形が洗練されているからでしょう。
窓辺におくと、トンボが風にゆらゆらと揺れる仕掛がほほえましく、落ち葉を散らした感覚も心憎い。これが実は木琴であることが嬉しい。音質に難点があるものの、子どもに音だけにおわらない美意識を伝える手仕事として、審査員が一致して評価しました。
寺内 定夫(おもちゃデザイナー)
優秀賞
まわる 興野 伸扶(熊本県)
楽木(ガッキ)・HIDI-O 神田 修(新潟県)
工事のおっちゃん 松本 博文(大阪府)
特別賞
木の枝でつくるおひなさまと鯉のぼり 榎 みえ子(長野県)
遊びにおいでよ 松本 昌人(長野県)
奨励賞
小枝たちによるユートピア 足立 迪雄(兵庫県)
スタンドーせみのこもれびー 村口 要太郎(青森県)
MY HOUSE 山川 マサミ(岐阜県)
ベジタブルメルヘン号 柴田 重利(埼玉県)
居巣(いす) 三井 典比古(埼玉県)
生態系の椅子ーECOSYSTEM CHAIR- 柳尾 海(岐阜県)
アイディア賞
3年フクロウ組にぎやかな教室 運野 淳(北海道)
背の君 橋本 啓子(福島県)
いっしょにアルコドン 樋上 潔(茨城県)
審査員
【審査員長】工業デザイナー 秋岡 芳夫
兵庫教育大学名誉教授 日野 永一
造形デザイナー 大野 巳喜男
組み木デザイナー 小黒 三郎
玩具デザイナー 寺内 定夫
日本玩具博物館長 井上 重義
美術評論家 増田 洋
童具館主宰 和久 洋三
東北工業大学客員研究員 山崎 純子