第10回受賞作品 [一般の部]

審査総評 総評

 この「全国ウッドクラフト公募展」も、今年で10回を迎えました。
 今年の応募作晶は例年以上の数となりましたが、数に現れた以上に大変すばらしい作品が数多く寄せられました。それぞれに個性を発揮した楽しい作品ばかりです。それだけに審査も例年以上に慎重で、かつ熱のこもったものにならざるを得ません。入賞された方々の作品は勿論として、惜しくも入賞を逸した作品の中にも見るべきものが少なくありませんでした。
 それ以上に私どもにとって喜ばしいことは、応募者に若い方や初めて応募された方が増えてきたことで、手作りに取り組む人たちの層の厚さが増してきたことを実感できたことです。
 この丹波年輪の里は、人々に木の文化と創造の喜びを味わってもらいたいと、兵庫県が10年前に創設したものです。自分の手を使ってモノを作ることは、モノと同時に自分を作ることでもあります。現在のモノにあふれた生活のなかでこうした活動を行うことは、人間が自然との交涜のなかで築き上げてきた木の文化を認識するだけでなく、モノを作る創造行為の中で自分自身を創りあげ、自分の生きがいを創造することにつながるのです。今ではこうした趣旨の重要性を認識して、全国各地に同様の施設が造られつつあります。最初は小さな点であったものが、各地に響きあって、一つの輪となって大きく広がろうとしているのです。この趣旨を全国に広げるために、県と地元の各自治体の協力を得て、創設の年から始めた「全国ウッドクラフト公募展」の応募者の層が厚くなったということは、この丹波の里から全国に向けての発信に、共鳴される方々が次第に増えつつあることを物語るものだと思います。今後も皆が手を携えて、この輪を広げるよう協力していきたいと思います。
 この公募展も10年間の成果を踏まえ、第11回目からは「丹波の森ウッドクラフト展」として、新しい気持ちで再スタートいたします。皆さんの一層のご協力をお願いいたします。

実行委員長 日野 永一
(兵庫教育大学名誉教授)

大賞

作品名 / URUSAISU(ウルサイス)
氏名 / 神田 修(新潟県)

【作者コメント】
 ビー玉落としとコリントゲームを合体させ、鉄琴等を組み込みイスにしました。座板を開いた時別世界が広がるよう意図しました。下の引き出しを10センチほど引いてビー玉を落として遊んでください。ウルサクなりますが……。

 添付のビー玉以外の物を使うと詰まったりします。めんどうな時、ゆすったり、ケリを入れてもいいです。また、乳幼児のビー玉誤飲にご注意ください。

【講評】
 ヨーロッパに、玉が溝を転がって鉄琴の階段に落ちて音を出す「クーゲルバーン」という玩具がある。幼児が好んで遊ぶ。更にゲーム遊びのコリントゲーム(パチンコを倒したような)がある。この二つの玩具を合わせていすの形のオブジ工仕立てにしたのが、この「URUSAISU」である。

 作者は前年にも「楽木」で優秀賞を受賞した。前作もそうだが、何か混沌としたエネルギーに溢れている。技術的、デザイン的完成度の高い作品とは決していえない。が、創作へ向けてのパワーを感じさせる。一体、これは何だと、誰でも玉を転がしたくなるだろう。

 作品のタイトルは、この作品をあらゆる意味で象徴していると思った。未完成だが、音だけでなく形もうるさい-URUSAI-が、面白い。玉が出なくなったら、「ゆすったり、ケリを入れてもよい」という作者のコメントにもガッツを感じた。

小黒 三郎(組み木デザイナー)

最優秀賞

作品名 / 木工屋の宝物
氏名 / 藤田 敏宏(大阪府)

【作者コメント】
 近年木工は電動工具や替え刃式工具が主流であるとよく耳にしますが、確かにそれらは便利であり私もよく使うのだけれど、やはり最終仕上げには鉋、ノミなどの刃物(古典的な手工具)がなければ話になりません。また、それらの形や機能、仕組みに魅せられ、自分で作ってみたいと思いました。本物の鋼を鍛えるというのは大変難しいので、すべて自然の木で自然の木の持つ色を生かして作ってみました。

【講評】
 この作者の持てる能力を充分発揮した作品である。要項の理解、主催者の求める物への焦点の合わせ方。また心理的効果まで計算した悠々たる仕事ぶり、1メートル角の板上に自らのテーマの中心になる小椅子の図面を描き、展示のための配置図を重ね合わせた周到な発想。工作物の現況は工作終了直前時に合わせて止めている。鉋には鉋屑が、台から外された刃は研石の上に等々、又釘頭を隠す埋木まで作る細密な遊び心、折れ釘と釘抜きは見る人に働きかける言外の意図が充分感じられます。

大野 巳喜男(造形デザイナー)

優秀賞

    きゃたぴら  森 章浩(東京都)
    小さな森のたからもの  山岡 惇(秋田県)
    神々のオブジェ  松本 昌人(長野県)

特別賞

    流木を使った作品 10点  川口 信善・久保田 達哉・半田 智彦・八木 孝樹・柳井 就一・岡野 弘法・岡村 浩宏・川原 昭代・佐々木 敏行・栃本 英樹(大阪府)

奨励賞

    子猫のシーソー・積木  藤原 精一(大阪府)
    カップ イン ジャンプ  岸本 幸太郎(兵庫県)
    春が来た  柴田 重利(埼玉県)
    春を待つ日  上原 雅子(京都府)
    指はじきブーメラン  沢 芳郎(兵庫県)
    季節の恵み  平澤 志津緒(東京都)

アイディア賞
        ほるじゃん   榎 つよ志(長野県)

   (シリーズ) WAHAHA  西 哲也(大阪府)
   新宝島  岩田 悌次(東京都)



審査員

    兵庫教育大学名誉教授 日野 永一
    造形デザイナー 大野 巳喜男
    【審査員長】組み木デザイナー 小黒 三郎
    玩具デザイナー 寺内 定夫
    日本玩具博物館長 井上 重義
    童具館主宰 和久 洋三
    東北工業大学客員研究員 山崎 純子


兵庫県立丹波年輪の里開苑10周年記念全国ウッドクラフト公募展巡回展

    平成9年11月17日(日)~平成9年11月21日(金)   東京展
    平成9年12月2日(火)~平成9年12月7日(日)   神戸展
    平成10年1月1日(木)~平成10年1月6日(火)   春日井展
    平成10年1月10日(土)~平成10年1月14日(水)   丹波の森公苑展