第12回受賞作品 [一般の部]

審査総評

誠実な美しさが彩るクラフト

 本展の作品の審査にかかわっていつも思うことは、制作者の手や制作姿勢が誠実で、すがすがしいということです。第12回展にもなると制作技術レベルの高い人がふえましたが、何よりもテーマに取組みアイディアを練るプロセスや、切る、彫る、削る、組み立てるなどの加工のすみずみに、ていねいさと誠実さを感じます。それがクラフトの本質なのかも知れませんが、誠実さが美しさをいっそう深めているように思えます。それは現代が喪失した自然の生命に依拠する真心とでも言いましょうか。

 いま家庭崩壊や幼児虐待などに象徴されるように、現代社会は誠実な人間関係が問われていますが、私たち日本人が人や生活に対して誠実さを失ったのは60年代に入ってからのことでしょうか。たとえば子供のおもちゃがプラスチックの量産型になるとファッションやコレクションが目的になり、おもちゃ箱は一気にふくれ上がるとともに使い続ける愛着心が薄れ、子ども時代から生活道具に対する誠実な心を失っていきました。

 大量生産大量消費で使い捨て生活にすっかり慣れてしまった私たちは、自然破壊や地球の温暖化についても誠実な危機意識が薄れていると言われています。生活に必要なものを工業生産にばかり依存し、自らの手で生活を作りだす生活力を弱めてしまいました。お金を出せばなんでも買える生活を享受し、家事や子育てはもちろんのこと、墓参り、葬儀参列なども代行業に依存するようになり、思いやりや誠実さも商品化できると考えられるようになりました。子どもが「ペットが死んでもまた買うからいい」と言うようにさえなりました。

 けれども、この使い捨て生活にくさびを打ち込んだのが、クラフトの誠実な美意識ではなかったでしょうか。削っては触り、組み立てては眺め、木の生い立ちを振り返り、使い勝手を工夫する繰り返しが、お金では買えない文化を生んでいるように思います。

 本展のテーマは「遊・戯・木のぬくもり」となっていますが、制作の誠実さに欠ければ遊び心は怠け心に映り、ユーモアは下品なものになるのではないでしょうか。木のぬくもりは素材自身が宿していますが、さらに人間の手のぬくもりで包み込むのが手仕事の誠実さです。ぜひ第13国展にも誠実とユーモアの造形美にチャレンジしてください。

一般部門審査員 寺内 定夫
(玩具デザイナー)

グランプリ

作品名 / 「小さな木の下で……」
氏名 / 蓮渓 円誠(滋賀県)

【作者コメント】
 一本の木を中心に人(人形達)が集まって、楽しく踊る様を表現した動く玩具です。

 中央の木の部分を勢いよく回すと人形達がくるくる回りながら踊ります。

【講評】
 蓮渓さんの第7回展の二羽の小鳥に飼をやる親鳥の作品「子育て」(優秀賞)の動きも面白かったが、今回の作品は動きの楽しさ、偶然性、単純さ、詩的情感という点でも抜群だった。蓮渓さんの作品には計算を感じさせない偶然のような動きがあり、それが動物の親子や男女のカップルの動きに、生きているもののあたたかさを感じさせる。

 中心の円錐形の木を手で回すと、弾み車になっていて、三つの円盤上の男女カップルが回転して踊る仕掛けである。人形の乗った円盤には予備が一つあって、弾み車の上に、乗せ変えることができるようになっている。人形の丸棒の片足は円盤の穴に差しこまれ、弾み車の面に接している。この接している部分が摩擦して人形は回転する。円盤の穴がやや斜めであること、足裏の面の角度に変化があることで、人形の動きは一定ではない。仕掛けはきわめてシンプルでありながら、牧歌的で楽しい動きを見せる作品である。

 動きにどのような工夫がなされ、新しいフォルムを生みだしているか、そのデザインのポイントを見事にクリアして、審査員全員一致の推挙でグランプリとなった。

一般部門審査員長
小黒 ≡郎(組み木デザイナー)

準グランプリ

氏名 / 山川 マサミ(岐阜県)

【作者コメント】
 ハンドルを回すと、様々な人形たちが動き出します。そのいろんな動きを楽しんだ後、本体の木枠を持って上下をひっくりかえして下さい。そしてまた、ハンドルを回すと、さっきとは違った動きを人形たちが見せてくれます。

【講評】
 作者は、昨年に続いて準グランプリを射止めました。お見事です。高水準を維持できる作者には、何か独自のコンセプトがありそうに思われます。

 まず、題名が「くるくるボン」と遊び事に擬態擬音語で誘いかけるところが目新しい。動き方そのものに創作のねらいをおいていることもわかります。また、人形たちの姿形がユニークです。子供の落書きのように屈託がなく、見たてが自由でまことに親しみ易い。さらにこれらが動き出すと、まるで異星人のアクロバットのよう。作者の筋書きにもなさそうな偶然のしぐさも楽しませてくれます。

 さりげなく誘いかける題名、空想を誘う人形の姿形と偶然の動き、その手法のいづれにも遊び手の側に立つ作者の視線が見えます。作り手の表現が尽くされ完結された作品ではなく、遊び手の遊び心をとらえ満たそうとする姿勢が、この作品の好感度の所以といえるでしょう。

水上 喜行(大阪教育大学教授)

優秀賞

    楽団(ジャズ) 田中 隆樹(福岡県)
    帽子(メガネホルダー) 三河 克哉(北海道)
    ”森の動物シリーズくじらの親子” 藤森 和義(長野県)

奨励賞

    ドングリゆらゆら 外村 憲平(東京都)
    ペンギンのコーラス 畑中 務(神奈川県)
    森のなかまたち 森谷 伸吉(島根県)
    双輪の舞 横山 薫(岡山県)
    たるのこいのぼり 萩原 幹雄(栃木県)

アイディア賞

    コマワールドシーソー型  郷野 敏明(山形県)
    運転シミュレーションゲーム  山口 康之(北海道)
    丸太小僧テクテクナ  田邊 英隆(神奈川県)
    居巣(いす)  三井 典比古(埼玉県)


審査員

    兵庫教育大学名誉教授 日野 永一
    造形デザイナー 大野 巳喜男
    【審査員長】組み木デザイナー 小黒 三郎
    玩具デザイナー 寺内 定夫
    日本玩具博物館長 井上 重義
    東北工業大学客員研究員 山崎 純子
    大阪教育大学教授 水上 喜行