第13回受賞作品 [一般の部]

審査総評

語りかけてくるクラフトの表情

 人はだれでも心の内の喜怒哀楽の感情や意思を表情に表し、人とのかかわりを深めてきたように、クラフト作品にも工業製品には見られない独特の表情が宿され、人の生活を和ませてきました。それは作者の手と心が作品のすみずみにまで行き届いた作者の精神のようなものでしょうか。
 ところが近年、赤ちゃんが微笑み返せなくなったり、笑顔であいさつできない小学生がふえています。おとなでも表情に乏しく、就職の面接で笑顔に自信の持てない若者が笑顔トレーニングの指導を受けるというほどです。
 これはテレビ・インターネット・携帯電話など生活の情報化がすすんだため、家族やふだんの人間関係に向き合って語り合う時間が激減し、お互いの気持ちを率直に語ることやゆったりとした表情交流が難しくなったからです。家族や学校での心の教育が叫ばれている背景の一つと言えます。
 一方、競争原理の市場経済に根ざした生活用晶は、手の働きを排除した成型主体の量産品のため、どうしても無機質な表情になりがちです。しかも魅力を取り戻そうとする過剰な装飾が、かえって人の心をいらだたせているようです。
 クラフトはこの現代のいらだちを癒すオアシスでありヒューマニズムです。クラフトはほっとする、温かみを感じる、ずっと使っていたくなるような表情を相手に伝えるのです。クラフトの表情は作者の心が作品に宿り、作品の内面性として内から外ににじみでてくるからです。ぜいたくな材の使い方、加工技術の巧みさ、カラクリの精巧性などが、クラフトの表情を豊かにするのではありません。
 しかし表情の本質は内面性の表出です。作者が私たちに何を語ろうとするのかの表れです。おそらくその第一の要件は作者自身が材と向き合い、制作の過程で何を語らったかということではないかと思われます。
 確かにこのクラフト展では年々加工技術が高度になってきました。しかしクラフトは加工技術の高さや美的表現だけに価値があるわけではありません。ことに「遊び、戯れ、木のぬくもり」というテーマは、現代社会の自然性や人間性を尊んでいます。向き合う心の交流をみんなで求めているのです。
 アマチュア作家が不慣れな加工技術を気にしたり、高価な材が使えないことなどからクラフト展の出品をあきらめるようなことはないでしょうか。現代社会がクラフトに求めているのは、作者が材と向き合い、家族と語らいながら制作するプロセスがクラフトの表情となり、それに触れる人々に優しく語りかけることなのですから。

一般部門審査員 寺内 定夫
(玩具デザイナー)

グランプリ

作品名 / 音のくるくるポン
氏名 / 山川 マサミ(岐阜県)

【作者コメント】
 ハンドルを回すと、いろんな形の人形たちが動き出し、木の音が聞こえてきます。

【講評】
 作者は13年間、年中行事のようにコンペに出品し続けて、準グランプリに続きグランプリを射止めた。先ずその努力を称えたい。

 特にこの3年間の仕事は素日吉らしかった。

 初めから、一貫して、「からくりの動きを追求してきた成果が、このグランプリに結晶した」とばくは思う。今回は4つの音の出し方、カタカタ、ウッドブロック、ギュロ、そしてささらの応用をたくみにとりこんで、作者ならではの個性のある人形のからくりおもちゃに作品化した。木という材質を生かした形と舌と動きの面白さが、審査員全員の評価を受けた。ここ数年、からくりブームともいえるほどからくりおもちゃの出品が多い中で、作者の具象と抽象のあいなかばする造形力の確かさ、単純化の面白さ、ブナ、チーク、ケヤキなど色の違う素材を生かす木工技術など、いずれの点においても質は高い。ユニークな作品だ。

 努力の積み重ねによって得た賞は審査する側にとっても嬉しいことであった。

小黒 三郎(組み木デザイナー)

準グランプリ

作品名 / 食卓の「くり・あずき」
氏名 / 青柳 豊和(神奈川県)

【作者コメント】
くり…あずきを遊び心で詰め合わせてみました。味わってみて下さい。
くり…両手でそ~つとあけてみて下さい。
あずき…スプーンでそ~つとすくってみて下さい。

【講評】
 目にも味わえるが、手にも味わえる作品である。作者のコメントに誘われ、そ~つと手にすると栗が戯れて、かくし味の正体が磁石と分かる。実に旨い。

 卓上がこんな器でもてなされるときっと心が和み語らいもはずむことでしょう。

 刳物指物などクラフト(技能の力量)もさることながら、着想にとても温もりの感じられる秀作である。作者には、四季の食卓を演じるクラフト工ンタテーナーとして、更に連作にも期待を寄せたいものだ。

水上 喜行(大阪教育大学教授)

優秀賞

    真夜中のどうぶつおもちゃたち 武知 広幸(岡山県)
    遊・宙 田中 稔(滋賀県)
    森のスキー場 熊埜御堂 俊雄(兵庫県)

奨励賞

    カートチェアー  中川 岳二(埼玉県)
    想像の森  田中 陽三(兵庫県)
    どうぶつの木  大澤 匡史(岩手県)
    お話ボックス「おやゆびひめ」  三輪 義信(愛知県)
    リング・リンク・シャトル  横山 薫(岡山県)
    森を渡る風  臼田 健二(北海道)

アイディア賞

    セミの森(ミンミンカナカナ?) 外村 憲平(東京都)
    お話クルクル 松本 昌人(長野県)
    大黒柱の背くらべ 小林 朗(滋賀県)
    メガネをかける動物たち 三河 克哉(北海道)


審査員

    兵庫教育大学名誉教授 日野 永一
    造形デザイナー 大野 巳喜男
    【審査員長】組み木デザイナー 小黒 三郎
    玩具デザイナー 寺内 定夫
    日本玩具博物館長 井上 重義
    東北工業大学客員研究員 山崎 純子
    大阪教育大学教授 水上 喜行