第14回受賞作品 [一般の部]
審査総評
荒々しい風潮に立ち向かうクラフト
コンクールの審査というとピーンと張りつめた緊張感があるものですが、しばらくするとふくよかな薫りと優しげな風に包みこまれた気分になります。それが丹波の森ウッドクラフト展の魅力です。おそらくすべての出品作者が長い制作時間の間、木のぬくもりに手の優しさを絶え間なく降り注いできたからではないかと思われます。
いま子育てで「揺さぶられっ子症候群」が問題視されています。生まれて間もない乳児を強く揺さぶり過ぎるので、重い障害が残ったり死亡したりする例がアメリカで数多く起きたからです。確かに現代人は言葉やしぐさが粗野で荒々しくなってきました。高度な情報化社会が人々の向き合う生活を激減させたことから、相手に対する思いやりや穏やかな振る舞いが奪われてしまったということでしょうか。虐待や暴力事件などが頻発することにもつながる社会風潮とも考えられます。
ところが丹波の森に集まるクラフトは、流れに逆らう自然派の人間主義を貫いています。作者はそれぞれ自作の世界を構築するのが喜びでしょうが、一堂に集まって仲間になると、まぎれもなくIT社会に対する壮大な創造エネルギーになっています。みなさん今後ともぬくもりと優しさの文化を世に送り出してください。
一般部門審査員 寺内 定夫
(玩具デザイナー)
グランプリ
作品名 / 踊る黒豆たち
氏名 / 熊埜御堂 俊雄(兵庫県)
【作者コメント】
丹波と云えば城下町、丹波踊り、黒大豆で有名ですね。
これを取り入れた作品です。
舞台のハンドルをゆっくり回して下さい。可愛い黒豆さんたち、タイコの音に合わせて踊ります。
踊りに合っていない豆さんもいるからね。よ~く見て楽しんでね。
【講評】
ハンドルを回す。刻まれるリズムは時と共に変調する。寂しいとき、腹立たしいときにはほほえましく、また、楽しいときにはより豊かにと響く。
黒豆たちが動く。リズムに合わせて踊り、バチを振る姿は軽やかで、しかし、86個(人)の中には音感が良くないものもいる。
機構は隠されている。舞台は城址だろうか。その内にある、舌と動きをしかける多くのカムは複雑な胎動を創り出す。
本展のテーマは「遊・戯・木のぬくもり」だが、作者がそれを良く消化し、自身のものにしていることが、作品に向かう私達を自然体にさせる。この地、丹波を見る作者の穏やかな眼差しも感じ取れる。これらが醸し出す一体感が、見るもの、遊ぶものを包み込む。昨年出展された作品から大きく踏み出されたことを実感出来る全体のまとまりや、豆たちの動きの微妙さ。それを支える機構の複雑さは、長かったであろう制作時の練り上げや楽しさを教えてくれる。作者が持つ世界は豊かであり共感できるものだ。
奥田 実(木工芸家)
準グランプリ
作品名 / Another world
氏名 / 上原 雅子(京都府)
【作者コメント】
私たちは、見たい!と思っても、なかなか見ることのできない世界がたくさんあります。
身近に共存していながら、出会うことの少ない野生の動物たち。
彼らの生き方。
足もとの地面の下には、そんな興味を掻立ててくれる未知のものがいっぱい。
見えない世界で遊んでみたくて、この作品を創りました。
【講評】
身近な世界を見て、いろんな世界を創案出来る制作者は、収穫季の山の豊かさを選び、全ての小動物、虫達がお腹を一杯にし、小鳥たちが合唱している様を描写しています。
穴の中では兎の一家が母兎を中心に、小兎がランドセルをのぞき学習の用意を、父兎は寒さに備えて薪や食料を集めに外に出ているのでしょう。ミミズをくわえた土竜や、蜂とその巣まで所を得て造られています。其緻密な木彫の集合体は見る者に驚きと共に楽しさを与えて呉れる作品である。
大野 巳善男(造形デザイナー)
優秀賞
花びらクルクル、回って!飛んで!! 沢 芳郎(兵庫県)
パレード 運野 淳(北海道)
メイク・アップ 樹ディ・ベア 木村 由紀惠(石川県)
奨励賞
草競馬 田中 隆樹(福岡県)
レリーフパズル(ワニ・タマゴ・満腹オバケ) 松本 悦男(京都府)
“めめ”かけて! 小松 優子(長野県)
てんとう虫の柏もち 外村 憲平(東京都)
森の風車小屋 三井 典比古(埼玉県)
アイディア賞
小形水車にて 人形が昔の農作業再現 戸川 勝美(島根県)
うずまきスライダー 湯元 桂二(福岡県)
フェイスパズル 横山 瞳(青森県)
特別賞
何でもブランコ 古野 年子・藤井 かず(滋賀県)
メッセージ 京都府聴覚障害者協会舞鶴支部(京都府)
審査員
兵庫教育大学名誉教授 日野 永一
造形デザイナー 大野 巳喜男
【審査員長】組み木デザイナー 小黒 三郎
玩具デザイナー 寺内 定夫
日本玩具博物館長 井上 重義
東北工業大学客員研究員 山崎 純子
大阪教育大学教授 水上 喜行
木工芸家 奥田 実