第19回受賞作品 [ジュニアの部]
審査総評
ウッドクラフトが内包するエネルギー
子どもたちのノコギリやカナヅチの音、制作中の親子の会話や楽器を調律している音、虫や小鳥の鳴き声、そして森の香りや川のせせらぎにも包み込まれる感じになるのが、ウッドクラフト審査会場のうれしさです。
いま、人が集まるときっと話題になるのが全国から報じられる子どもたちの悲しい出来事ですが、子どもたちのウッドクラフトに囲まれると、そのつらい気持ちからふと解放される思いがします。近ごろの子どもたちが人間関係につまずき悩む原因の一つとして、ゲームやメールなどの情報に時間を奪われ、手足を働かせるふだんの生活経験が激減しているとよく指摘されています。
ところがウッドクラフト展に出品した子どもたちのコメントや作品をみると、自然環境や木材と出会っているだけでなく、親や先生の生活の知恵や技術を学び、友だちと支えあい励ましあっている様子が山ほど伝わってきます。人やものとの関係文化をしっかりと学習しているのです。たとえば入賞には至らなかったものの、ヒモを巧みに使った鳥小屋や漁師のおじいちゃんに教わったというヒモ結びなどに、継承されている生活文化が息づいています。
自然の美しさをたっぷりと味わい、苦労を重ねてもの作りに励み、仲間と励ましあうウッドクラフト制作は、現代の子どもの悲劇を克服するエネルギーをいっぱい内包しているかもしれません。
ジュニアの部審査委員長 寺内 定夫
(玩具デザイナー)
グランプリ
作品名 / フクロウの森
氏名 / 大阪府立 修徳学院 木工部
【作者コメント】
私たちの学院は約4万坪の敷地があり、その中に杉林があります。間伐した木を使って何かを作ろうと考えました。
私たちの学院は全寮制で1ヶ寮10人前後の生徒と職員が一緒に生活しています。フクロウは生徒ひとりひとりをあらわしており、私たちの生活を表現しています。
杉材をくりぬき円形(ドーナツ状)にするのが難しかったです。
【講評】
全寮制の学校で学びあう仲間の力作に拍手を贈ります。仲間が見つめあい競いあい励ましあわなければ、絶対に完成しないような作品群ですからね。長い人生でもめったに出会えない経験でしょうし、仲間がいる充実した生活の証です。フクロウの瞳がそれを物語っています。
年輪の効果によって、一つ一つがみんな異なる眼の表情が表れてきたときには、さぞかし感激したことでしょうね。ウッドクラフトの美しさです。惜しかったのはタマゴの制作でした。時間不足で手が回らなかったのでしょうが、白い色にこだわらずに同じ材で彫れば、フクロウたちも喜んだと思います。
寺内 定夫(玩具デザイナー)
準グランプリ
作品名 / ○○さん家のポストマン
氏名 / 伊藤 千尋・菊地 妥木(東京都立 工芸高等学校3年生)
【作者コメント】
この作品は、家に置いてただ観賞するものではなくて、家に住んでいる人と共に生活していくものにしてあげたいと思いました。そこで考えたのが家族同士を繋ぐポストマンでした。
帽子がくるくる回ったり、頭にアメ玉を入れたり、体がポストになっていたり、自分達で名前が付けられるようにあえて名前を付けなかったりと、遊び心がいっぱいの木のぬくもりが伝わる可愛らしい作品に仕上がっています。
【講評】
ハイテク機器がどんどん発達して、便利なことも増える反面、手紙やメモなど機械を通さない通信手段の大切さを改めて考えます。この作品は、家族同士のコミュニケーションの仲介者として、更にはもう一人家族が増えたような役割を果たすことが、容易に想像できるすばらしい作品だと思いました。シンプルで洗練されたデザイン、木材をより美しく見せる着色など、外観的にも申し分有りませんが、ただ一つ、腰を曲げてお辞儀をさせた時に帽子がずれ落ちる点だけが、もうひと工夫ほしいところでした。
礒尾 隆司(彫刻家)
準グランプリ
作品名 / きらきらギター
氏名 / 荒木 活瑠(丹波市立 崇広小学校2年生)
【作者コメント】
「ギターがほしいなぁ」と思ったので作りました。
材料の木は「おちゃわんの入っていた木のはこ」と、「おばあちゃんの家のとなりの家が修理していて、そこの大工さんからもらった、あまった木」です。
ギターの形にするのがむずかしかったけど、かなづちをつかってくぎをうつのはすきなので、かんたんにできました。
これは、ひいたら「キラキラ星」の歌になります。 (1.上~下までひく 2.シールをはっているところを2回ひく 3.上~下までひく) かんたんにひける、ぼくの「きらきらギター」ができて、とてもうれしいです。
【講評】
子どもたちは、ただ飾るだけでなく、音が出たり動いたりする玩具がすきです。自分の楽器がほしいと思った後、買ってもらうのではなく作ろうと思ったことがとても素晴らしいと思いました。「ああでもない。こうでもない。」と、お父さんやお母さんと一緒に試行錯誤しながら作っている姿が目に浮かびます。四角い箱だけでも音は出ますが、ギターの様にネックをつけたことでぐんと見栄えがよくなっています。廃物の木の箱も、多分大事にとってあったものだと思いますが、色彩もよく品の良さが伺えます。
弦楽器は誰でも演奏できるというものではありませんので、このように順に弾いていくと曲になるというのはとてもいいアイデアです。名前の通り1つ1つの音が「キラキラ」と輝いていて、楽器の色からも夜空の星を思い浮かべました。
足立 晃一郎(篠山養護学校教諭)
優秀賞
丹波市長賞 HAT(ハッと)するせんぬき 大阪府立 修徳学院 第3寮
丹波市議長賞 鯨・サブマリン 東京都立 工芸高等学校(3年)小林 史弥
丹波市教育委員会教育委員長賞 流木のいす 姫路市立 花田小学校(6年)川上 慈世
アイディア賞
兵庫県芸術文化協会理事長賞 デカマキリ 寒川町立 寒川東中学校(3年)諏訪 隆
財団法人兵庫丹波の森協会理事長賞 ときめき 東京都立 工芸高等学校(3年)岡野 のぞみ
丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞 動物ハウス 神戸市立 南五葉小学校(6年)中村 玲央
兵庫県勤労福祉協会理事長賞 木きん 丹波市立 黒井小学校(3年)古寺 翼
奨励賞
丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞 リラックスチェアー 茅ヶ崎市立 円蔵中学校(1年)日ノ沢 優太
兵庫県勤労福祉協会理事長賞 汽車 篠山市立 城南小学校(5年)堀本 紘代
兵庫県勤労福祉協会理事長賞 おじさん・ぽじさん・ポストさん 姫路市立 花田小学校(3年)渡邉 侑希子
特別賞
丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞 もりのむしたち 姫路市立 花田小学校(1年)岩谷 優太朗
丹波の森ウッドクラフト展実行委員長賞 玩具百貨店 西宮市立 今津中学校 美術部
出展校数:25校、個人出展2名/出展作品数:323点
審査員
【審査委員長】玩具デザイナー 寺内 定夫
篠山市立 篠山養護学校 教諭 足立 晃一郎
彫刻家 礒尾 隆司
日本玩具博物館 館長 井上 重義
三田市中学校美術部会員 大前 勝彦