第6回受賞作品 [一般の部]
審査総評 ウッドクラフト展に寄せる
丹波年輪の里は、兵庫県の丹波地域の中心旧織田藩の城下町柏原にある。ウッドクラフト創造の場所である。兵庫県で第3回国民文化祭が開催されたのを機会にして、「全国ウッドクラフト公募展」は、この年輪の里を舞台にして行われることになった。
この公募展のサブタイトルは、「集合!遊・戯・木のぬくもり」である。このことばが物語っているものは、人間と樹木とのふれあいのなかから生まれてくる文化の創造ということにほかならない。しかし公募展にはあるひとつの基準が必要である。「遊・戯・木のぬくもり」ということばは、この公募展の基準を示すものでもある。木を素材にして木の感触や木目などを生かしながら、おもちゃや遊具を対象にして、新しい工夫や新しい感覚を取り入れた造形の創造を、「全国ウッドクラフト公募展」は呼びかけているのである。
たとえ一坪の庭であっても、常緑樹や落葉樹、花の咲く木や実を結ぶ樹、高くなる木や低い木が、上手に組み合わせられると、四季を楽しめる庭になる。同様に素材としての木にも、様ざまな独特の材質がある。木の音もまことに多様である。木目や節も一様でない。造形の素材として、木のように多彩なイメージを引き出せる素材も他に見出すことは難しい。
人間は五感の調和で成り立っている。この五感を発達させる仕掛けが、おもちゃであり、遊具である。そしてまた、五感を発達させる最もすぐれた素材が木であることも、動かし難い事実である。
「全国ウッドクラフト公募展」は、回を重ねるにともなって、次第に参加者の輪が広がってきて、ことしはイタリアとオーストラリアからの出品もあった。「遊・戯・木のぬくもり」は、文化の創造の源泉である。丹波年輪の里から生まれるものの豊穣を、期待しようと思う。
増田 洋
(兵庫県立近代美術館参与)
大賞
作品名 / あかり/あかり付コーナーテーブル
氏名 / 澤井 泉源(滋賀県)
【作者コメント】
古い和船の木で作りました。(木のぬくもりがあるから)
【講評】
誰もいない砂浜の片隅に残された一隻の廃船。人々の哀愁を誘う風景であるが、その風雨にさらされた木材の材質に「ぬくもり」を見出した作者の心が伝わってくる。その素材を、宮沢賢治童話さえ思わせるメルヘンの世界にまで高めた作者の造形性が、大賞に選ばれた大きな理由である。
その効果を高めるために、細部にまで細かい神経が払われている。例えば切断した木口の色調、電線を埋め込んだ金属の処理、接合の跡を塞いだ釘の頭に至るまで、全体との調和が図られ独特の雰囲気を創りあげている。
ただ、この作品が、作者と素材の一期一会の出会いによるアートに近い作品であって、ウッドクラフトの趣旨と合致するものであるかについては、審査員の間で真剣な討議がなされた。結局はこの展覧会のテーマでもある「遊び」を直接に表現したものではないが、木のぬくもりを表現したこの作品には、作者の高度な遊び心が読み取れるとして受賞が決定した。
日野 永一(兵庫教育大学教授)
最優秀賞
作品名 / 木の葉の小皿パズル
氏名 / 西 哲也(大阪府)
【作者コメント】
切断線を効果的に生かし、必然性を持たせたジグソーパズルです。切断線を木の葉の葉脈線にあてはめています。木の葉は小皿のモチーフにもマッチしますので、切断された各ピースの中に磁石を埋め込んで、ステンレス基板に接合させることにより、機能性と即物性を計りました。小さなお菓子や筆記具など、使われる方のウイットに合った乗せかたを楽しんでみて下さい。
【講評】
葉形に切り取られた金属版に、同型の木製の板が磁石で取り付けてある。ただこの板は葉脈の形によって切られており、これによく見なければわからないように磁石が埋め込まれている作品である。作者はグラフィックデザイナー。さすがに1枚1枚の様々な葉形はみごとに洗練されていて美しい。菓子皿やペン皿にも使えるように、パズルとしての機能も持たせ遊べるようになっている。
こんな製品が1つ、2つ、机上にさりげなく置かれていたら、きっと心なごませるものとなるだろう。
大賞候補ともなった作品だが、惜しくもそれを他に譲ったのは、すべての木部が同種の材によって作られていたからである。木の種類を葉形によって変えていれば、彩りも豊かになり、集合体として見せるとき、さらに魅力的になった筈である。
ともあれ、この公募展ならではのユニークな発想に審査委員一同大いに満足した作品である。
和久 洋三(童具館主宰)
優秀賞
あの頃の味です 平澤 志津緒(東京都)
UFO・非現実的飛行物体 西田 明夫(岡山県)
自由New Do's 森 一三(滋賀県)
特別賞
森の仲間たち 松尾 和哉(長野県)
Spin 4 若林 孝典(岡山県)
奨励賞
親子でSWING 三村 昌満(京都府)
8分間世界一周 松本 昌人(長野県)
ウインディウッドたこ・ウインディウッドくらげ 松永 るみ子(東京都)
カエルのひきだし 山川 マサミ(岐阜県)
オッパイバックチェアー 田中 陽三(兵庫県)
アイディア賞
落下傘シリーズ 樋口 一成(愛知県)
水蓮 前出 文孝(兵庫県)
口笛 足立 晃一郎(兵庫県)
木ま間な時けい 中井 秀樹(東京都)
審査員
【審査員長】工業デザイナー 秋岡 芳夫
兵庫教育大学教授 日野 永一
造形デザイナー 大野 巳喜男
組み木デザイナー 小黒 三郎
玩具デザイナー 寺内 定夫
日本玩具博物館長 井上 重義
兵庫県立近代美術館次長 増田 洋
日本おもちゃ会議常任委員 和久 洋三